【英語論文の書き方】第10回 名詞の修飾語を前から修飾する場合の表現法

2016年1月27日 16時21分

名詞を修飾する場合には、前から修飾する場合(前置修飾)と後ろから修飾する場合(後置修飾)とがあります。

例えば”a big house”は前置修飾であり,”a house that is big”は後置修飾になります。

一般的には前置修飾の方が後置修飾より英文を簡潔に表現することができます。一方,後置修飾は、修飾語が多い場合や修飾部分が長い場合,前置修飾ができない場合、あるいは前置修飾すると内容が不明確になる場合に使用されます。

そこで今回は,英文をより簡潔に表現するという観点から,内容が不明確にならない程度に名詞の特性を前置修飾する方法について紹介します。

1. 簡潔な表現のための前置修飾

名詞を前置修飾する場合の利点は英文を簡潔に表現できることにあります。

そこで初めに簡潔な英文を書くための前置修飾の効果について具体例を用いて説明します。

原文:バイオマスとは,エネルギーへの利用ができる再生可能な生物由来の有機性の資源のことである。

<訳例1> Biomass is a resource that is organic, plant-derived, and renewable; it can be used as energy. (16 words)

<訳例2> Biomass is an organic, plant-derived, renewable resource; it can be used as energy. (13 words)

<訳例3> Biomass is an organic, plant-derived, renewable energy resource. (8 words)  

<訳例1>は名詞 “a resource” を後置修飾することで作成した英文で,その語数は16語になります。英文法的にも問題ありません。

<訳例2>は,後置修飾部分 “that is organic, plant-derived, and renewable” を名詞 “a resource” に前置修飾させることで簡潔化した英文で、語数が16語から13語まで低減されています。なお簡潔化に伴う情報の変化はありません。

<訳例3>は,”it can be used as energy” の部分をさらに名詞 “a resource” に前置修飾させることで簡潔化を図った英文で,語数を8語まで減らすことができました。ただし<訳例3>ではcanの意味が消えてしまっています。しかし,”can be used as energy” は結局 ”energy source”と考えられますから,簡潔化に伴う情報の変化はないと考えることができます。

このように、前置修飾は簡潔な英文を書く上で1つの有効な手段であることが分かります。

2. 名詞の特徴を前置修飾する場合の一般的順序

技術英文では寸法や形状など物質の物理的特徴を記述する場面に時々遭遇しますが,名詞の物理的特徴を前置修飾させる場合は,自然な修飾方法として次のような順番が推奨されています。  

数 →大小→寸法→形状→ 色→ 材料→ (名詞)    
※上記のアンダーラインの部分(大小、寸法、形状、色、材料)が修飾語
  
以下,具体例を用いて説明します。

原文1:透明で小口径の3本のガラス管

<訳例1> × transparent small-bore three glass tubes

<訳例2> ○ three small-bore transparent glass tubes  

<訳例1>では、形容詞の順番が原文に記載されている語順に従って色→形状→数→材料→(名詞) の順に表現されています。

一方,<訳例2>では,推奨される順番に従って数→形状→色→材料→(名詞) の順で表現されています。一見どちらでも良さそうですが,自然な表現としては<訳例2>の方が推奨されます。

原文2:黒いプラスチック製の12インチの5つの円盤

<訳例1> × black plastic twelve-inch five disks

<訳例2> ○ five twelve-inch black plastic disks  

<訳例1>では、形容詞の順番が原文に記載されている語順に従って色→材料→寸法→数→(名詞) の順に表現されています。

一方,<訳例2>では,推奨される順番に従って数→寸法→色→材料→(名詞) の順で表現されています。したがって自然な表現としては、<訳例2>が推奨されます。

原文3:大きな半透明で長方形の2個のビニール袋

<訳例1> × large transparent rectangular two plastic bags

<訳例2> ○ two large rectangular transparent plastic bags  

<訳例1>では、形容詞の順番が原文に記載されている語順に従って大小→色→形状→数→材料→(名詞) の順に表現されています。

一方,<訳例2>では,推奨される順番に従って数→大小→形状→色→材料→(名詞) の順で表現されています。したがって自然な表現としては<訳例2>が推奨されます。

 

3.  前置修飾を用いた和文英訳例

次に簡潔化を目的に前置修飾を用いた和文英訳例を紹介します。

原文1:温度計は目盛付きの密閉されたガラス管で出来ている。

<訳例1> A thermometer consists of a sealed glass tube with gradations. (10 words)

<訳例2> A thermometer consists of a sealed graduated glass tube. (9 words)  

<訳例1>は、原文の「密閉された」の部分を形状に相当する部分と考え、形状→材料→名詞の順に前置修飾させ、さらに「目盛付きの」の部分を後置修飾させた英文です。この英文は基本的にはこのままでも問題ないのですが、”with gradations”の部分を前置修飾させると、<訳例2>のようにより簡潔な英文を書くことができます。

この場合、sealedを寸法、glassを材料、graduatedは寸法や色に対応する部分と考えて、“a sealed graduated glass tube” とすると自然な英語表現が可能になります。 


原文2:そのコネクタは小型で,20アンペア用の3ピンのパワープラグである。

<訳例1> The connector is a power plug that is small, carries a current of 20 A, and has 3 pins. (19 words)

<訳例2> The connector is a small 20-A, 3-pin power plug. (9 words)

<訳例1>は、原文の「小型で,20アンペア用の3ピンの」の部分を原文の順番通りに後置修飾させることによって作成した英文です。この英文では、後置修飾のために使用した関係代名詞that以下の動詞が ”is”、”carries”、”has”となっており、一貫性がありません。

一方、<訳例2>は、「小型で,20アンペア用の3ピンの」の部分を、推奨される順番を踏まえて前置修飾させることで簡潔化した英文です。このように前置修飾することで19語が9語まで簡潔化されました。

なお<訳例2>における ”20-A” と “3-pin”の語順については明確な判断基準はありません。そこで “3-pin”の方が ”power plug”との結びつきが強い傾向があることを考慮し、ここでは” a small 20-A, 3-pin power plug”の順としました。

原文3:直径1/4インチのスティール製の10,000個のボールベアリングが,5インチ×10インチ×10インチの箱に入っている。

<訳例1> Ten thousand ball bearings that are one-quarter inch in diameter and made of steel is contained in a box that has dimensions of 5 inches times 10 inches times 10 inches. (31 words)

<訳例2> The 10,000 one-quarter inch diameter steel balls are contained in a 5-inch times 10-inch times 10-inch box. (17 words)

<訳例1>は、原文の「直径1/4インチのスティール製の10,000個の」の部分および「5インチ×10インチ×10インチの」の部分を、原文の順番通りに後置修飾させることによって作成した英文です。この英文では修飾語をすべて後置修飾されたため、冗長な表現になっています。

一方、<訳例2>は、推奨される順番を踏まえ、修飾語のすべてを前置修飾させることで書き直した英文です。このように前置修飾させることによって、31語が17語まで簡潔化されました。

なお、ここで述べている推奨される順番は主として名詞の物理的特徴に関するものですが、次のように一般的な物理的特徴と無関係な修飾語については語順に関する明確な決まりはありません。

しかし自然な英文の語順という観点からは、対象となる名詞と一番強く結び付く修飾語を名詞の直前に配置することをお勧めします。
一例を以下に示します。


 原文4:液化天然ガスは,環境汚染の少ない電力用燃料としてますます注目を集めている。

<訳例1> Liquefied natural gas is attracting more attention as an electric power fuel that causes less pollution. (16 words)

<訳例2> Liquefied natural gas is attracting more attention as a low-environmental pollution electric power fuel. (14 words)

<訳例1>は「環境汚染の少ない」の部分を後置修飾させることで作成した英文であり、<訳例2>は「環境汚染の少ない」の部分を前置修飾させて作成した英文です。ただし前置修飾に伴って、”less pollution” の部分を “low-pollution”に変更してあります。

ここで原文に「電力用燃料」とありますから、“electric power fuel”は1つのまとまりと考え、“low-pollution” の部分を“electric power fuel”の前に配置しました。


 

4.  まとめ

以下に、前置修飾の特徴と、名詞の特徴を前置修飾する場合の一般的順序をまとめました。

1 前置修飾は、英文の簡潔化に有効な手法である。

2 名詞の特徴を前置修飾する場合の一般的順序   

数→大小→ 寸法 → 形状 → 色 → 材料 → (名詞)
※アンダーラインの部分が修飾語    

3 修飾される名詞と結び付きの強い修飾語は名詞の直前に配置する。


 

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執筆者紹介 興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績



1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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興野先生は弊社でも論文専門の翻訳者としてご活躍されています。
これから『英語論文の書き方』シリーズとして、このような興野先生のコラムを毎月2本お届けいたします。
どうぞお楽しみに!

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