第3回 助動詞のニュアンスを正しく理解する:「~することが出来た」「~することが出来なかった」の表現

2015年9月28日 16時10分


From 興野 登(フリーランス翻訳者。工学博士)

「~することが出来る」という日本語を英語で表現する場合には一般に助動詞 can が使われます。
canには「~をする能力がある」という意味があることから ”can + 動詞” は「~することが出来る」という意味に解釈されます。

では「~することが出来た」という過去の出来事に対しては,単に can の過去形である could に変更すれば良いのでしょうか?

結論として could に変更するだけでは原文の意味を正確に表すことにはできません。
そこで助動詞 can や could およびその他の「~することが出来る」という表現に関連した英語表現について,それらの意味上の違いを解説します。

 

canの意味

助動詞 can は,物理的あるいは精神的に,人や物が現時点で「~する能力がある」ことを意味します。
つまり「~することが出来る」という意味になります。

以下に can を使用した英文の一例を示します。
ここで以下の<訳例1>と<訳例2>は,結局同じ意味を表しています。

<例文> We can import the machine from the US.
<訳例1> 我々は米国からその機械を輸入する能力がある。
<訳例2> 我々は米国からその機械を輸入することが出来る。
 

be able toの意味

“be able to” は主語が人や生命体の場合に使われ,その主語に「~する能力がある」ことを意味しています。

したがって人や生命体の場合は can と同じ意味で使うことが出来ます。ただし “be able to” は ”be動詞 + able + to + 動詞” の形で構成されていることから,受動態や未来を表す表現でも使用することが出来ます。

注意点としては,can が人や物に対して使用されるのに対し,“be able to” は人や生命体の場合に限って使われる点があげられます。

couldの意味

助動詞 could は can の過去形ですから,物理的あるいは精神的な意味で,過去の時点において「~する能力があった」ことを意味します。

ただし,「現在はその能力がない」こと,また「過去には長い間,その能力があった」という意味合いが含まれます。

以下に could を用いた英文の一例と,その英文の日本語訳と,could の持つ意味合いを含めた日本語訳とを,訳例1および訳例2に示します。

<例文> We could import the machine from the US.
<訳例1> 我々は米国からその機械を輸入する能力があった。
<訳例2> 我々は長い間米国からその機械を輸入する能力があったが,今現在はない

上記<訳例2>から分かるように could を用いた英文では,過去に「米国からその機械を輸入したかどうか」という事実については明確ではありません。
さらに,could を用いた英文は,

<例文> We could import the machine from the US, (if we wanted to import the machine).
<訳例> もしその機械を米国から輸入することを望んでいれば,我々はその機械を輸入することが出来るのだが…)

という仮定法の意味でも解釈することが出来ます。

つまり過去形の could を使った英文は,「我々は米国からその機械を輸入することが出来た」という原文の意味からはかなり違った意味で解釈されることになります。

「~することが出来た」の表現

それでは,「我々は米国からその機械を輸入することが出来た」の意味を英文で表す場合はどうしたら良いのでしょうか?

1つの解決策としては “be able to” の過去形 “was/were able to” を使って,以下のように表すことが考えられます。

<例文> We were able to import the machine from the US.
<訳例> 我々は米国からその機械を輸入することが出来た。

ここで “was/were able to” は,過去に長い間,その能力があったことを示しているだけであり,基本的に could の意味と変わりはありません。
しかし,このあとに,1つの出来事を表す意味で動作動詞  import  が続く場合は,「~を輸入する能力があった」ではなく,「~を輸入することが出来た」,つまり「~を輸入する行為を実施した」という意味になります。

もう1つの解決策は「~することが出来た」という能力の意味ではなく,「~を実施した」という過去の事実だけに着目し, 下記のように,動詞の過去形 imported を用いて表すことが考えられます。

<例文> We imported the machine from the US.
<訳例> 我々は米国からその機械を輸入した。

ここで,“was/were able to + 動作動詞” による表現と,動詞の過去形による表現を比較すると,動詞の過去形による表現の方には「能力」に関する表現が表面上消えていることが分かります。しかし内容的には,日本語の「~することが出来た」は「~という行為を実施した」と解釈出来ますから,「我々は米国からその機械を輸入することが出来た」を「我々は米国からその機械を輸入した」と解釈することが出来ます。

したがって動詞の過去形 imported を用いた表現が最もシンプルで分かり易い英語表現であることが分かります。

なお,「~することが出来た」に対する別解として,下記のように ”manage to + 動詞” を使って表すことも考えられます。

<例文> We managed to import the machine from the US.
<訳例> 我々は苦労して米国からその機械を輸入した。

ただしこの場合は「苦労の末,何とか輸入することが出来た」という意味合いが含まれます。

 

「~することが出来なかった」の表現

それでは「~することが出来なかった」のような否定表現の場合はどう表せばよいでしょうか?

助動詞couldは,物理的あるいは精神的に過去の時点で「~する能力があった」という意味ですから,その否定形 “could not” は,物理的あるいは精神的に過去の時点で「~する能力がなかった」という意味になります。

「~する能力がなかった」のであれば「~することが出来る」はずもなく,”could not” は結局 「~することが出来なかった」の意味になります。

また “was/were able to” の場合も,その否定形 “was/were not able to” は,「過去に長い間,その能力がなかった」ことになります。したがって,“was/were not able to” も結局は「~することが出来なかった」の意味になります。

このように,「~することが出来なかった」に対する英語表現としては “could not”でも “was/were not able to” でも良いことが分かります。なお,“was/were not able to” は “was/were unable to” のように “unable to” を使って簡潔に書くことも出来ます。

まとめ

「~することが出来た」および「~することが出来なかった」に関連する表現を以下にまとめましたので参考にして下さい。

「~することが出来る」  
<例文> We can import the machine from the US.   
<例文> We are able to import the machine from the US.

「~することが出来た」
(1) was/were able to + 動作動詞
<例文> We were able to import the machine from the US.

(2) 動作動詞の過去形 (最も一般的)
<例文> We imported the machine from the US.

(3) manage to + 動作動詞 (「苦労して~することが出来た」の意味)
<例文> We managed to import the machine from the US.

「~することが出来なかった」
could not was/were not able to あるいは was/were unable to が使用可能

<例文1> We could not import the machine from the US.
<例文2> We were not able to import the machine from the US.

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執筆者紹介:興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏 三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績



1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
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8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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