【英語論文の書き方】第4回「~を用いて」の表現:by と with の違い

2015年10月14日 15時56分


「~を使用して」や「~による」という日本語を英語で表現する場合 by や with が良く使われますが、両者はどのように使い分けたら良いのでしょうか?

この問題については,一度は悩まれた方も多いと思います。

そこで第4回では、「~を使用して」という日本語に対応する by と with の違いについて、関連する表現も含めて紹介します。


 

byとwithの基本的違い

by と with の基本的違いは「何を使用するのか」という使用対象の観点から考えることができます。

例えば、「ある解析手法を使用して」に対しては by を、ハンマーのような「大工道具を使用して」に対しては with が使用されます。

この違いを一般的にまとめると,byは抽象的手段に,withは具体的手段に用いられる,と考えることができます。

このためbyに対する使用対象は冠詞なしで,一方withに対する使用対象は冠詞付きで表されます。そこで使用対象から分類したby と withの基本的違いを以下にまとめました。
 
項目 使 用 対 象
by 抽象的手段(動作・行為、方法・手法、運搬・交通・通信)
with 具体的手段(道具,物質・物体,材料)

以下にby と withを使用した具体例を解説を含めて紹介します。
 

(1) byの具体例

<例文1> その装置はコントロールパネル上のボタンを押すと作動する。
<訳例1> The device can be activated by pressing the button on the control panel.

解説:日本文の「ボタンを押すと」とは、「ボタンを押す動作や行為」と解釈できます。
したがって「動作や行為」を表す動名詞 pressingを使用して,”by pressing” と表すことができます。

<例文2> 有限要素法を用いて、その建物を解析した。
<訳例2> The building was analyzed by the finite element method.

解説:日本文の「有限要素法を用いて」とは、「有限要素法という解析手法を使用して」と解釈できます。
したがって「方法・手法」を表す”the finite element method” を使用して, “by the finite element method” と表すことができます。

<例文3> 我々の工場ではこれらの機械を手で組み立てる。
<訳例3> These machines are built by hand in our factory.

解説:日本文の「手で」とは、「 手という組立方法を用いて」と解釈できます。
したがって「組立方法・手段」を表す handを使用して,“by hand” と表すことができます。

例文4> その原油はパイプラインで運ばれている。
<訳例4> The crude oil is transported by pipeline.

解説:日本文の「パイプラインで」とは、「パイプラインという運搬手段を使用して」と解釈できます。
したがって「運搬手段」を表す pipelineを使用して, “by pipeline” と表すことができます。

<例文5> 日本の都市部では,多くの人が毎日電車で通勤している。
<訳例5> In urban areas in Japan, many people commute by train every day. 

解説:日本文の「電車で」とは、「電車という交通手段を使用して」と解釈できます。
したがって「交通手段」を表す trainを使用して,“by train” と表すことができます。

<例文6> 申請書はすべて電子メールで送ること。
<訳例6> All applications forms must be sent by email.

解説:日本文の「電子メールで」とは、「電子メールとう通信手段を使用して」と解釈できます。
したがって「通信手段」を表す emailを使用して,“by email” と表すことができます。


 

(2) withの具体例

<例文1> ネジ回しでネジを締めなさい。
<訳例1> Tighten the screw with a screwdriver.

解説:日本文の「ネジ回しで」とは、「 ネジ回しという道具を用いて」と解釈できます。
したがって具体的「道具」を表す “a screwdriver” を使用して “with a screwdriver” と表すことができます。

<例文2> サンプルの一部を立体顕微鏡で観察した。
<訳例2> A fraction of the sample was observed with a stereomicroscope.

解説:日本文の「立体顕微鏡で」とは、「 立体顕微鏡という道具を用いて」と解釈できます。
したがって具体的「道具」を表す “a stereomicroscope” を使用して “with a stereomicroscope” と表すことができます。

<例文3> 金属板で溶接部を強化しなさい。
<訳例3> Reinforce the welded area with a metal plate. 

解説:日本文の「金属板で」とは、「金属板という物体を用いて」と解釈できます。
したがって具体的「物体」を表す “a metal plate” を使用して “with a metal plate” と表すことができます。

<例文4> 通常pHは,リトマス紙で測定する。
<訳例4> Usually, pH is measured with litmus paper.

解説:日本文の「リトマス紙で」とは、「リトマス紙でという材料を用いて」と解釈できます。
したがって具板的「材料」を表す “litmus paper” を使用して “with litmus paper” と表すことができます。

関連する手段の表現

次に「~を使用して」に関連する手段の表現として by using, by way of, through / via が使われる状況と具体的例文を紹介します。

(1) by using “by using” は「動作や行為」を表す動名詞 usingを使用して,”by using” と表わされていることから,「動作や行為」としての手段の意味で解釈されます。ここでusingの目的語が具体的手段であれば “by using” は with に置き替えることが出来ます。

したがって,わざわざ ”by using” を使う必要はありません。

しかし,あえて”by using” を使ったり,usingの目的語が解析手法などの場合に “by using” を使用したりする場合は,何らかの理由で(強調や他との対比など)その解析手法が使われたという意味合いで解釈されます。  

<例文> その大学で開発されたプログラムを使用して,インピーダンスを解析した。
<訳例> The impedance was analyzed by using the program developed at the university.

解説:何らかの理由から「その大学で開発されたプログラム」を用いて解析したことを意味しています。

(2) by way of “by way of” は1つの行為を実現させるための手段を表す場合,あるいは他の手段では実現が不可能な手段を表す場合に使用されます。

<例文> 昔はデータをキーボードとマウスで手入力した。
<訳例> In the past, data was manually entered by way of a keyboard and a mouse.

(3) through / via through と via は,「経路や媒介物を通じて」の意味があり,間接的な手段としての意味で使用されます。  

<例文1> 理論は実験を通じてのみ実証される。
<訳例> Theories can only be verified through experiments.

<例文2> 自転車では,軸受装置を介してクランク軸を回す 。
<訳例> In a bicycle, the pedals turn the crank shafts via a bearing system.
 

by と with の使い方のまとめ

(1) 手段を表す表現

by: 抽象的手段(動作・行為、方法・手法、運搬・交通・通信)
with: 具体的手段(道具,物質・物体,材料)

(2) 関連する手段の表現

by using: 強調や他との対比など,何らかの理由がある場合に使用
by way of: 他では実現できないような行為を実現する手段
through / via: 間接的な手段

無料メルマガ登録

ワールド翻訳サービスでは、2週間に一度のペースで『英語論文の書き方』をお届けしてまいります。

最新の『英語論文の書き方』をメルマガにて配信しております。
今回のような役立つコンテンツをお届けしますので、見逃したくない方は下記のフォームよりメルマガにご登録ください。
メールアドレス
お名前

執筆者紹介:興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏 三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績



1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

*************
興野先生は弊社でも論文専門の翻訳者としてご活躍されています。
これから『英語論文の書き方』シリーズとして、このような興野先生のコラムを毎月2本お届けいたします。
どうぞお楽しみに!

最新の『英語論文の書き方』をメルマガにて配信いたします。
今回のような役立つコンテンツをお届けしますので、見逃したくない方は上記のフォームよりメルマガにご登録ください。
バナー

〒300-1206
茨城県牛久市ひたち野西3-12-2
オリオンピアA-5

TEL 029-870-3307
FAX 029-870-3308
ワールド翻訳サービス スタッフブログ ワールド翻訳サービス Facebook ワールド翻訳サービスの動画紹介