【英語論文の書き方】第22回 不定詞と動名詞: Part 1

2016年7月25日 11時06分

不定詞と動名詞は準動詞に分類され、どちらも「~すること」を意味する名詞的用法が存在します。
したがって他動詞の後に準動詞を使う場合には、不定詞と動名詞のどちらを使うべきか、
という問題が発生します。

この問題の解決法として文法書では、
(1)不定詞だけをとる動詞、
(2)動名詞だけをとる動詞、
(3)どちらでも意味がほぼ同じ動詞、および、
(4)不定詞と動名詞では意味が異なる動詞
が紹介されています。

しかし、これらの動詞を使いこなせるようになるにはかなりの労力を必要とします。
また覚えたからと言って、文法書で紹介されていない動詞に対してはどうしたらよいのか、
という疑問が生じます。

そこで今回は文法書に頼らず不定詞と動名詞が使いこなせるように、
不定詞と動名詞の本来の意味から出発して、

なぜ不定詞だけが用いられるのか、
なぜ動名詞だけが用いられるのか、
また不定詞と動名詞で意味がほぼ同じというのは本当なのか、
もし意味が変わるのであればどのように違うのか、
さらに不定詞と動名詞で意味が異なる場合は
どのよう変わるのか、について考えてみたいと思います。


 

1. 不定詞と動名詞の本来の意味

上記の問題を考える基礎として、まず不定詞と動名詞の本来の意味について紹介します。

ただし不定詞と動名詞に対する解釈は人によって異なりますので、
ここで述べる内容は筆者独自の解釈になります。

(1) 不定詞 不定詞 (to + verb) は動詞的傾向が強く、本来、
「現時点から今後に向かう主語の動作や状態」という意味合いがあります。
またその「向かっている先」を意味する場合もあります。
したがって不定詞は、今後に向かった主語の意志や行動を表す動詞と共に用いられる傾向があります。

(2) 動名詞 動名詞 (verb + ing) は、名詞であると同時に動詞として機能します。
動詞としては、進行中あるいは一連の動作や行為のみを表します。
したがって動名詞になり得る動詞は動作動詞に限られます。
また動名詞自体に時制はなく、その時制は動名詞の動作に作用する動詞によって決定されます。

 

2. 不定詞だけを目的語にとる動詞

不定詞だけを目的語にとる動詞としてはdecideやplanが知られています。
そこでdecideとplanがなぜ不定詞だけを目的語にとるのかを、以下の例文を用いて解説します。

<例1>○I decided to buy the book. (私はその本を買うことを決めた)
<例1’>×I decided buying the book.

<例2> ○The student is planning to study abroad. (その学生は海外留学を計画している)
<例2’>×The student is planning studying abroad. 

[解説]
<例1>において動詞decideは、「(今後何かをしようと) 決心する」という主語の意志を表します。
また不定詞to buy を用いた to buy the book は、「(今後) その本を買う」という
「現時点から今後に向かう主語の動作」を意味しています。
したがってdecideの後に不定詞が続くことは自然な流れであるということができます。

一方、<例1’>において動名詞buying を用いたbuying the bookは、
単に「その本を買う」という主語の動作の意味しかなく、
「現時点から今後に向かう主語の動作」を求めるdecideの目的語になることはできません。

同様に<例2>において動詞planは、「(今後何かをしようと) 計画する」という主語の意志を表します。
また不定詞 to studyを用いたto study abroad は、「(今後) 留学する」という
「現時点から今後に向かう主語の動作」を意味しています。
したがってplanの後に、不定詞が続くことは自然な流れであるということができます。

一方、<例2’>の動名詞studyingを使ったstudying abroadは、単に「(今後)留学する」
という主語の動作の意味しかなく、「現時点から今後に向かう主語の動作」を求める
planの目的語になることはできません。

文法書では不定詞だけを目的語にとる動詞が紹介されています。
そこで代表的な動詞を以下にまとめました。
いずれも「現時点から今後に向かう主語の動作」を求める動詞となっています。
言い換えれば,これらの動詞自体の持つ本来の意味に適する目的語として、
不定詞の名詞的用法が使われているわけです。

agree (同意する) decide (決心する) desire (望む) determine (決心する)
expect (予期する) fail (しそこなう) hope (望む) intend (意図する)
learn (するようになる) manage (なんとか~する) mean (するつもり)
offer (申しでる) plan (~を計画する) pretend (ふりをする) promise (約束する)
resolve (決心する) seek (しようと務める) wish (を望む)
 

3. 動名詞だけを目的語にとる動詞

動名詞だけを目的語にとる動詞としてはavoidやfinishが知られています。
そこでavoidとfinishがなぜ動名詞だけを目的語にとるのかを、
以下の例文を用いて解説します。

<例1>○Avoid exposing the equipment to direct sunlight.
(装置を直射日光にさらさないこと)
<例1’>×Avoid to expose the equipment to direct sunlight.

<例2> ○I have to finish writing a report by tomorrow.
(私は明日までにレポート作成を完了しなければならない)
<例2’>×I have to finish to write a report by tomorrow. 

[解説] <例1>において動詞avoidは、「(何らかの動作を) 避ける」という意味を表します。
また、動名詞exposing を用いたexposing the equipment to direct sunlight は、
単に「装置を直射日光にさらす」という「(主語の)動作や行為」を意味しています。
したがって、avoidの後に動名詞が続くことは自然な流れであるということができます。

一方、<例1’>において不定詞to expose を用いたto expose the equipment to direct sunlightは、
「(今後) 装置を直射日光さらす」という「現時点から今後に向かう主語の動作」を意味しています。
したがって単に「何らかの動作や行為」を求めるavoidの目的語になることはできません。

<例2>において動詞finishは、「(なすべき動作や行為を) 完了する」という意味を表します。
また動名詞writingを用いた writing a report は、単に「レポートを作成する」という
「(主語の)動作や行為」を意味しています。
したがってfinishの後に動名詞が続くことは自然な流れであるということができます。

一方、<例2’>において不定詞to finish を用いたfinish to write a reportは、
「(今後)レポートを完了する」という「現時点から今後に向かう主語の動作」を意味しています。
したがって「なすべき動作や行為の完了」を求めるfinishの目的語になることはできません。

文法書では動名詞を目的語にとる動詞が紹介されています。
そこで代表的な動詞を以下にまとめました。
いずれも単に「動作や行為(進行中も含む)」を求める動詞となっています。
言い換えれば、これらの動詞自体の持つ本来の意味に適する目的語として動名詞が使われているわけです。

admit (認める) avoid (避ける) deny (否定する) delay (延期する) enjoy (楽しむ)
escape (避ける) excuse (許す) finish (終了する) give up (あきらめる)
involve (巻き込む) mind (気にする) miss (し損なう) practice (練習する)
postpone (延期する) stop (やめる)
 

まとめ

不定詞と動名詞の基本的な意味

不定詞
現時点から今後に向かう主語の動作や状態、またはその向かっている先を意味する。
今後に向かった主語の意志や行動を表す動詞と共に用いられる傾向がある。

動名詞
名詞であると同時に動詞として機能する。
動詞としては、進行中あるいは一連の動作や行為のみを表す。
動名詞になり得る動詞は動作動詞で、動名詞自体に時制はない。
その時制は動名詞の動作に作用する動詞によって決定される。
 
(つづく)

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執筆者紹介 興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績

1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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