【英語論文の書き方】第9回 top-heavyな英文を避ける

2016年1月7日 15時21分

From 興野 登(フリーランス翻訳者・工学博士)

主語の部分が述語の部分に比べて極端に長い英文は,一般に ”top-heavy” な英文と呼ばれています。

”top-heavy” な英文では結論が最後に現れることから,内容が最後まで確定せず,特に技術英文では必ず避ける必要があります。

そこで今回は ”top-heavy” な英文とはどのような英文なのか,また ”top-heavy” な英文を回避する効果的な方法について紹介します。

1. top-heavyな英文とは?

例えば次のような日本文(原文)を英訳する場合を考えます。

原文1: 計算機システムを効率良く使用するには,すべての資源を効果的に動作させるプログラムが必要である。  

初めに原文の語順で訳した結果を<訳例1>に示します。
<訳例1> To use computer systems efficiently, programs that allow all the resources to be operated effectively are needed.  

<訳例1>における主語および述語の部分は下記の通りです。

主語: programs that allow all the resources to be operated effectively
述語: are needed  

上記<訳例1>の主語の部分は述語の部分に比べて非常に長いことが分かります。
また動詞neededが文末に来ていることから,英文の意味は文末でやっと確定されます。

このような英文は一般的に”top-heavy” な英文と呼ばれ,特に情報を正確,明瞭,簡潔に表現することを目的とする技術英文では嫌われますから,必ず避ける必要があります。

 

2. “top-heavy”な英文を回避する効果的方法

それでは ”top-heavy” な英文を避けるにはどうしたら良いのでしょうか?

ここでは効果的な2つの方法を紹介します。

(1) you (人々)を主語にする

原文に明示されてはいませんが,「プログラムが必要である」のは一般的に「人々」と考えられます。
したがって次の<訳例2> のように,youを主語として,能動態の英文を作成することが考えられます。

<訳例2> To use computer systems efficiently, you need programs that allow all the resources to be operated effectively.  

<訳例2>において主語の部分および述語の部分は下記の通りです。
動詞 need が主語に続いて使用されていることから,”top-heavy” な英文の問題は解消され,分かり易い英文となっていることが分かります。

主語: you
述語: need programs that allow all the resources to be operated effectively  

なお,<訳例2>ではyou を主語にしましたが,原文の内容から主語が想定できる場合は,たとえ原文に記載されていなくとも,原文の内容から想定される主語をyouの代わりに使用することが出来ます。

ここではengineersを使用した例を<訳例3>に示しました。

<訳例3> To use computer systems efficiently, engineers need programs that allow all the resources to be operated effectively.

(2) 無生物主語構文を使用する

原文に「計算機システムを効率良く使用するには,」とありますから,<訳例4> のように,この部分を無生物主語 (Efficient use of computer systems) として能動態の英文を作成することが考えられます。

なお<訳例4>では,無生物主語を使用することを考慮して動詞としてrequireを使用しています。

<訳例4> Efficient use of computer systems requires programs that allow all the resources to be operated effectively.  

<訳例4>において主語の部分および述語の部分は下記の通りです。
無生物主語(Efficient use of computer systems) の後に動詞requireが続いて使用されていることから ”top-heavy” な英文の問題は解消され,分かり易い英文となっていることが分かります。

主語(無生物主語): Efficient use of computer systems
述語: requires programs that allow all the resources to be operated effectively.


 

3. “top-heavy”な英文を回避するその他の方法

次に,”top-heavy” な英文を回避するその他の方法として (1) 仮主語のitを使う方法と(2) there構文を使う方法,を紹介します。

ただし,英文の簡潔化という点ではどちらのも推奨できる方法ではありません。
したがってこれらの方法は ”top-heavy” な英文を回避する目的でのみ使用することをお勧めします。

(1) 仮主語のitを使用する

例えば次のような日本文(原文)を英訳する場合を考えます。

原文2: トランジスタ内での電子の挙動を理解することは重要である。

初めに原文の語順で訳した結果を<訳例1>に示します。

<訳例1> Understanding the behavior of electrons in transistors is important.  

<訳例1> において主語の部分および述語の部分は下記の通りです。

主語: Understanding the behavior of electrons in transistors
述語: is important  

この英文は ”top-heavy” な英文となっていますが,ここでは先に(1) youを主語にする方法や (2) 無生物主語構文を使用する方法は使用できませんので,仮主語のitを文頭に使用して<訳例2>のように書き変えます。

<訳例2> It is important to understand the behavior of electrons in transistors.  

<訳例2> において主語の部分および述語の部分は下記の通りです。仮主語itの後に動詞isが続いて使用されていることから ”top-heavy” な英文の問題は解消され,分かり易い英文となっていることが分かります。

主語: It
述語: is important to understand the behavior of electrons in transistors

(2) there構文を使用する

例えば次のような日本文(原文)を英訳する場合を考えます。

原文3: 地球温暖化の存在が否定できない現実であることを受け入れない科学者もいる。

英文としては不自然ですが,初めに原文の語順で訳した結果を<訳例1>に示します。

<訳例1> Some scientists who do not accept the existence of the global warming as an undeniable reality are.  

<訳例1> において主語の部分および述語の部分は下記の通りです。

主語: Some scientists who do not accept the existence of the global warming as an undeniable reality
述語: are  

この英文は ”top-heavy” な英文となっています。そこでthere構文を使用して倒置文を作成し,<訳例2>のように書き変えます。

<訳例2> There are some scientists who do not accept the existence of the global warming as an undeniable reality.  

<訳例2> における主語および述語の部分は<訳例1>の場合と同一ですが,there構文を用いて倒置文としたことにより”top-heavy” な英文の問題が解消され,分かり易い英文となっていることが分かります。

なお,原文3は最終的には<訳例3>まで簡潔化することが出来ます。

<訳例3> Some scientists do not accept the existence of the global warming as an undeniable reality.


 

4. まとめ

以下に”top-heavy” な英文を回避するための方法をまとめました。

(3)項と(4)項については,基本的に”top-heavy” な英文を回避する目的でのみ使用することをお勧めします。

 top-heavyな英文を回避する方法

(1)  you (人々)あるいは想定される主語を使用する。
(2)  無生物主語構文を使用する。
(3)  仮主語のitを使用する。
(4)  there構文を使用する。

無料メルマガ登録

メールアドレス
お名前

これからも約2週間に一度のペースで、英語で論文を書く方向けに役立つコンテンツをお届けしていきますので、お見逃しのないよう、上記のフォームよりご登録ください。
 
もちろん無料です。

執筆者紹介 興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績



1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

*************
興野先生は弊社でも論文専門の翻訳者としてご活躍されています。
これから『英語論文の書き方』シリーズとして、このような興野先生のコラムを毎月2本お届けいたします。
どうぞお楽しみに!

最新の『英語論文の書き方』をメルマガにて配信いたします。
今回のような役立つコンテンツをお届けしますので、見逃したくない方は上記のフォームよりメルマガにご登録ください。
バナー

〒300-1206
茨城県牛久市ひたち野西3-12-2
オリオンピアA-5

TEL 029-870-3307
FAX 029-870-3308
ワールド翻訳サービス スタッフブログ ワールド翻訳サービス Facebook ワールド翻訳サービスの動画紹介