英語論文の書き方:第2回「装置」に対する英語表現

2015年9月14日 16時18分

From  興野 登(フリーランス翻訳者、工学博士)
日本語の「装置」という言葉を和英辞典で調べると多くの表現があることが分かると思います。

例えば関連する英単語としてequipment, apparatus, appliance, device, system, machine, unit, instrument, tool, facility などがあげられます。しかし,1つの「装置」という日本語に対し,どうしてこんなに多くの英語表現が存在するのでしょうか?

この理由は日本語と英語の言語の違いに関係していると思われます。
つまり,日本語は1つの言葉に多くの意味を持たせる傾向があるのに対し,英語は1つの言葉にできるだけ具体的な意味を割り当てようとする傾向があるからだと思います。

そこで今回は,日本語の技術表現でよく使用される言葉である「装置」に対する英語表現について,具体的にはそれぞれがどのように違うのか,さらにどのように使われるのかについて,具体例を用いて紹介します。
 

1. equipment

「装置」に対する英語表現としてはequipmentを思い浮かべる人が多いと思います。

equipmentを使う上で注意すべき点はequipment が集合名詞であり,装置全体を意味することがあげられます。したがって “an equipment” や equipmentsというような表現はありません。個々の装置を表現したい場合は “a piece of equipment” や “two pieces of equipment” のように ”piece(s) of” を用いた形で表現する必要があります。

<例1> Most mechanical equipment uses gears.
(ほとんどの機械装置では歯車が使われている)

<例2> In the future, all electronic equipment will be connected to the Internet.
(将来、すべての電子機器はインターネットに接続されることになる)
 

2. apparatus

apparatusは特定の目的のために使用される個々の装置の集合体,あるいは個々の装置を表す場合に使用されます。

したがって集合名詞として使用することもできれば,複数の個々の装置という意味でapparatuses と表現することもできます。apparatusは主に理化学機器やスポーツ用装置などを表す場合に使用されています。

<例1> A sudden increase in pressure may damage the apparatus.
(圧力が急激にあがると装置が損傷する可能性がある)

<例2> The apparatuses used in the experiment are as follows:
(実験に使用した装置は次の通りです)

3. appliance

applianceは特定の機能を果たすよう設計された個々の装置を表す場合に使用されます。
主としてエアコンやテレビ,電子レンジなどの家電製品の意味で使われます。

<例1> You cannot dispose of these household appliances in this community.
  (この地域では、これらの家電製品を廃棄することはできません)

<例2> For safety, do not use too many appliances at the same time.
(安全のために,あまり多くの家電製品を同時に使わないこと)

4. device

deviceは特定された、比較的簡単な機能を果たすよう設計された個々の機器や装置,道具などを表す場合に使用されます。

サイズとしては非常に小さいものから大きなものまで可能で、たとえば半導体素子 (semiconductor device) のような小さなものから揚水装置 (water lifting device のような大きなものまで表すことができます。

<例1> A switch is a device for turning electricity on and off.
(スイッチは,電気を入れたり切ったりするデバイスである)

<例2> Valves are devices used to control the flow of a gas or a liquid.
(バルブは気体や液体の流れを調節する装置である)

5. system

system は,相互に関連する電気部品や機械部品が集まって一体とみなされるようになった装置を表す場合に使用されます。

deviceと同様、サイズには無関係で、小さいものから大きなものまでが可能です。systemを構成する個々の構成部品は一般にcomponentと呼ばれています。

<例1> In a digital audio system, all audio signals are converted to digital signals.
(ディジタルオーディオ装置ではアナログ信号はすべてディジタル信号に変換される)

<例2> A computer system consists of a central processing unit, storage media, and I/O devices.
(計算機システムは中央演算装置,蓄積メディア,および入出力装置からなる)

6. machine

machine はdeviceの分類にも含まれますが、特に人の力で大きな力を出させるための比較的簡単な装置や、電気などの力を利用して、より効率的に仕事を行うことができる個々の機械装置を表す場合に使用されます。複数のmachineを表す場合は、集合名詞machineryが使われます。なおmachineryには乗り物や自動車も含まれます。

<例1> A machine is a device that transforms energy from one form to another.
(機械とはエネルギーを1つの形態から他の形態に変える装置のことである)

<例2> When we entered the building, we saw big machines in motion.
(その建物に入ると大きな機械が動いているのが見えた)

7. unit

unit はsystemの一部として特殊な機能を行うように設計された装置を表す場合に使用されます。unitは通常、他のunitと接続して使われます。

<例> The system comprises at least one drilling unit.
(装置は少なくとも1個以上の掘削装置から構成される)
 

8. instrument

instrument は、特に正確さが求められる個々の計測装置や医療機器を表す場合に使用されます。
また楽器 (musical instrument) を表す場合もあります。

<例> A thermometer is an instrument for measuring temperature.
(温度計は温度を計測する装置である)

9. tool

tool は何らかの行為を行うために必要な個々の道具や設備を表す場合に使用されます。

旋盤などの工作機械を表すこともあり,その意味ではmachineの分類に含まれます。
なおtoolは、工作機械の刃を表す場合にも使われます。

<例> The precision of cutting tools is getting better and better.
(切削工具の精度はどんどん上がっている)

10. facility

facilityは何らかの行為に対して便宜を図るために設計された装置を表す場合に使用され、一般に施設や設備と訳されています。facilityが単独で用いられ場合は単数で表されますが、単独で使われることは稀なので、通常は複数形で表されます。

<例> Some incineration facilities use garbage to generate electric power.
(焼却施設の中にはごみを利用して発電する施設もある)

まとめ

このように,日本語で一口に「装置」といっても,その日本語に対応する英語表現では,日本語の内容を踏まえ、最も具体的な言葉を選択する必要があることが分かると思います。ここで紹介した「装置」に対応する英語表現を以下にまとめましたので参考にして頂ければ幸いです。

(1) equipment: 集合名詞。装置全体。
(2) apparatus: 特定目的用。集合名詞 or 普通名詞 (単数扱)。理化学機器など。
(3) appliance: 特定目的用。普通名詞 (単数扱)。家電機器や家電製品。
(4) device: 特定目的用。普通名詞 (単数扱)。比較的簡単な機能を実現。
(5) system: 関連する電気・機械部品の集合体。普通名詞 (単数扱)。
(6) machine: 効率的に仕事を行う機械装置。普通名詞 (単数扱)。
(7) unit: システムの一部。特殊な機能を行う装置。普通名詞 (単数扱)。
(8) Instrument: 正確さが求められる計測器や器具。普通名詞 (単数扱)。
(9) tool: 道具や設備。普通名詞 (単数扱)。普通名詞 (単数扱)。
(10) facility: 便宜を図るため装置。通常複数形で使用。
 

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執筆者紹介:興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏 三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績



1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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