第1回 if、in case、when の正しい使い分け:確実性の程度を英語で正しく表現する

2015年8月25日 12時30分

From 興野 登

科学技術分野では「~すると」とか「~する場合には」という表現が多く使われます。
例えば「氷を熱すると,氷は水に変わる」といった場合です。
このような場合の「~すると」とか「~する場合には」にはどのような英語表現がふさわしいのでしょうか?
以下に4つの例について考えます。

Case 1 原文:氷を熱すると,氷は水に変わる。



<訳例1> If ice is heated, it turns into water.
<訳例2> In case ice is heated, it turns into water.
<訳例3> When ice is heated, it turns into water.

<訳例1> のif は,条件として「不確実な未来の状態や動作」を推量する場合に使われます。
したがって,” If ice is heated,” には,「氷を熱することは今後あまりないであろうが」という意味合いが含まれます。
しかし氷は放置しておいても周りの空気によって熱せられて水になってしまいます。
したがってこのような推量は非現実的であり, <訳例1> は,不適切な表現であると判断することができます。

それでは <訳例2> の in case はどうでしょうか?
in case にはifよりも一段と可能性が少ない「万が一」という意味合いが含まれます。
つまり “In case ice is heated,” には「そのようなことはめったにないが万一あるとすれば」という意味合いが含まれています。

しかし先に述べたようにこのような推量は非現実的であり,不適切な表現であると判断することができます。
最後に <訳例3> の whenですが,whenは「確実性の高い未来の出来事」を推量する場合に使用されます。
つまり ”When ice is heated,” には,「氷を熱することは今後よくあることだが」という意味合いが含まれます。
先に述べた通り,このような推量は現実的に妥当であり, whenを用いた <訳例3> は,上記3つの訳例の中で唯一適切な表現であると判断することができます。

Case 2 原文:バイトが少しでも破損すると,うまく切削できなくなる。



<訳例1> When the cutting tool is tipped even a little, it will not cut satisfactorily.
<訳例2> In case the cutting tool is tipped even a little, it will not cut satisfactorily.
<訳例3> If the cutting tool is tipped even a little, it will not cut satisfactorily.

<訳例1> の when は,先に述べたように,「確実性の高い未来の出来事」を推量する場合に使用されます。
したがって “When the cutting tool is tipped even a little,” には「バイトが破損することは今後よくあることだが」という意味合いが含まれています。
言い換えれば,”When the cutting tool is tipped even a little,” は「このバイトは頻繁に破損する可能性がある」ことを暗示しています。
したがってこのような表現ではユーザはこのバイトを使う気になれないと思います。
結論としてwhenを使った <訳例1> は不自然であり,不適切な表現であると判断することができます。

<訳例2> の in case は, ifよりもさらに可能性が少ない「万が一」という意味を含んでいます。
したがって ” In case the cutting tool is tipped even a little,” には,「バイトが破損することはめったにないが万が一破損した場合には」という意味合いを含んでいます。
このような推量は,このバイトがよほど強く頑丈であるという確証がなければ言えることではありません。
したがって原文の内容から判断して必ずしも適切な表現と判断することはできません。

最後に <訳例3> のifですが,if は条件として「不確実な未来の状態や動作」を推量する場合に使用されます。
したがって ”If the cutting tool is tipped even a little,” には「バイトが破損するということはあまりないが,もし破損した場合には」という意味合いが含まれています。
一般に製品としてのバイトは簡単には破損しないように作られていますから,この表現は現実的に妥当であり,if を使用した <訳例3> は上記3つの訳例の中で最も適切な表現であると判断することができます。

Case 3 原文:1年以内に,この製品に不都合が生じた場合は,お近くの正規サービス営業所へお持ちください。



<訳例1> When anything goes wrong with the product within a year, take it to a nearby authorized service location.
<訳例2> If anything goes wrong with the product within a year, take it to a nearby authorized service location.
<訳例3> In case anything goes wrong with the product within a year, take it to a nearby authorized service location.

<訳例1> の when は,「確実性の高い未来の出来事」を推量する場合に使用されます。
つまり” When anything goes wrong with the product within a year,” には,「この製品に不都合が生じることは今後よくあることだが」という意味合いが含まれます。
言い換えれば,「この製品は頻繁に故障する可能性があり,信頼性がない」といっているようなものです。
このような表現は非現実的であり,whenを用いた <訳例1> は不適切な表現であると判断することができます。

次に <訳例2> のif は,条件として「不確実な未来の状態や動作」を推量する場合に使用されます。
したがって ”If anything goes wrong with the product within a year,” には「製品に不都合が生じることはあまりないが,もし生じた場合には」という意味合いが含まれます。
製品は通常,簡単には不都合が生じないように作られていますから,この表現は現実的に妥当な表現であると判断することができます。

<訳例3> の in case は,ifよりもさらに可能性が少ない「万が一」という意味合いを含んでいます。
言い換えれば ” In case anything goes wrong with the product within a year,” は,「バイトが破損することはめったにないが万が一,破損した場合には」という意味合いが含まれます。
このような推量は,「この製品は信頼性が高く,不都合が生じることはめったにない」ことを暗示しており,in case を用いた <訳例3> は,3つの訳例の中で最も適切な表現であると判断することができます。

Case 4 原文:血圧が低くなりすぎると,血液が体内を正常に流れないだろう。



<訳例1> When blood pressure becomes too low, the blood will not flow properly throughout the body.
<訳例2> If blood pressure becomes too low, the blood will not flow properly throughout the body.
一方, <訳例1> のwhenは「未来に関する確実性の高い出来事」を表しますから, ” When blood pressure becomes too low” は,「血圧が低くなりすぎることは通常よくあることであるが」という意味合いが含まれます。
しかし,人間は健康であれば血圧が低くなりすぎることは通常はありませんから,このように推量は非現実的であり,不適切な表現であると判断することができます。

一方 <訳例2> のifは,「不確実な未来の出来事」を推量する場合に使用されます。
したがって ”If blood pressure becomes too low” には「血圧が低くなりすぎることは通常はないが,もし低くなりすぎると」という意味合いが含まれます。
この推量は現実的に妥当であり,ifを用いた <訳例2> は原文の内容を適切に表現していると判断することができます。

このように「~すると」とか「~する場合には」に関して用いられるwhenやif, in caseは,それぞれの表現の意味合いと表現すべき内容の現実性を判断して使い分けることが重要です。

そこでこれら使い分けについて以下にまとめました。

まとめ


if 不確実な未来の出来事を推量する場合に使用される。
<例文> If blood pressure becomes too low, the blood will not flow properly throughout the body.

in case 万が一に生ずる出来事を推量する場合に使用される。
<例文> In case anything goes wrong with the product within a year, take it to a nearby authorized service location.

when 確実性の高い未来の出来事を推量する場合に使用される。
<例文> When ice is heated, it turns into water.

執筆者紹介 興野 登(きょうの のぼる)氏


興野 登氏 三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。

最近の実績


1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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興野先生は弊社でも論文専門の翻訳者としてご活躍されています。
これから『英語論文の書き方』シリーズとして、このような興野先生のコラムを毎月2本お届けいたします。
どうぞお楽しみに!

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