【英語論文の書き方】第13回 「技術」を表す英語表現

2016年3月11日 11時45分

第2回で「装置」を表す英語表現に多くの種類があることを紹介しました。今回は「装置」と同様,技術文で頻繁に使用される「技術」を表す英語表現について解説します。
 
まず日本語における「技術とは何か」ということですが、科学技術分野における基本的な意味としては、「科学における研究成果に基づいて人間の生活をより豊かにするための知識や方法」と解釈することができると思います。

したがって日本語の「技術」が意味する範囲は,発明などに見られる個々のアイディアから、科学的技術全体に至るまで,広範囲に及ぶことが分かります。

しかしながら、このような日本語の「技術」の意味に直接対応するような英語表現があるわけではありません。例えば日本語の「技術」を辞典で調べると,technique や technology, skill, artなどが見つかるかとおもいます。つまり日本語の「技術」は,英語では一語では表わせないわけです。

そこで今回は,まずこれら個々の英語の基本的な意味を紹介し,次にどのような場合にどの英語表現を使ったら良いかを,具体例を上げて紹介します。

なお,techniqueに近い言葉としてtechnicsがありますが,この言葉はtechniquesからの派生語であり,主としてブランド名として使われていることから,ここでは取り上げないこととします。


1. 「技術」に関連する英語表現

日本語の「技術」に関連する英単語であるtechnique, technology, skillおよび artには大まかに下記のような違いがあります。
 
(1) technique           
何らかの仕事を行うために開発された個々の特殊な方法や手順のこと(複数形:techniques)。  
       
(2) technology         
実用目的に使用される科学や装置に関連する一般的あるいは総合的な知識や方法のこと。
基本的に単数形で使用されますが,個々の方法や手順の集まり(a collection of techniques)としては複数形で使用されます。

(3) skill                    
何らかの仕事を行うために訓練によって身に付けた人間の能力,技能のこと(複数形:skills)。 

(4) art                    
芸術や自然科学に対する人文科学,または人文科学における個々の技能のこと
 ( 芸術:art,人文科学:arts,技能:a skill)。
                                    

2. 英語での「技術」の表現例

(1)  technique
英語のtechniqueは,個々の技術や方法,手順を意味しています。したがって研究機関や大学,企業などが個別に開発している技術はすべてtechniqueということになります。次に示すtechnologyではありませんので注意が必要です。
 
<1> 多重プログラミングは,同時に複数のプログラムを処理する技術である。
Multiprogramming is a technique of processing more than one program at the same time.
[解説]「多重プログラミング」とは1つのプログラミング技術であると考えられますから,a technique で表現されます。

<2> これらの問題を克服するため,入力電力の品質を改善する手法がいくつか提案されている。
To overcome these problems, several techniques have been suggested to improve the input power quality.
[解説] 原文に「入力電力の品質を改善する手法が幾つか」とありますから,個別の技術が複数あることになり,several techniques で表現されます。

<3> その新しいチップ製造技術は脳型コンピュータ開発への大きい一歩となる。
The new chip-making technique will provide a significant step in developing a brain-like computer.
[解説] 原文に「その新しいチップ製造技術」とありますから,特定された1つのチップ製造技術としてthe new chip-making techniques で表現されます。
 
(2)  technology
technologyは,一般的あるいは総合的な知識や方法を意味します。その意味では単数形で使用されますが,個々の方法や手順の集まり (a collection of techniques) としては複数形で使用されます。したがってtechnologiesとい複数形での使用が可能になります。
 
<1> 技術は社会に対して有益であると考えられてきた。
Technology has been considered to have beneficial effects on society.
 [解説] 原文の「技術」とは,科学や装置に関する一般的な概念として,知識や方法を意味していることから,単にtechnologyで表現されます。

<2> 最新の技術を用いても,直下型地震を予測することは難しい。
Even with the latest technology, it is difficult to predict an earthquake directly above the epicenter.
[解説] 原文にある「最新の技術」とは直下型地震を予測するための総合的な知識や方法を意味していることから,technologyで表現されます。

<3> クローン技術を使えば,同じ遺伝的特徴を有する動物を作り出すことが可能である。
Cloning technology can produce genetically identical copies of animals.
[解説] クローン技術とは個々の技術ではなく,総合的な知識や方法を意味していることからcloning technologyで表現されます。

<4> 水中翼船には航空機の技術が多く盛り込まれている。
Jet foils heavily employ aircraft technologies.
[解説] 航空機には電気,電子,通信,機械,材料などを含め,多くの個別の総合的な知識や方法が必要になります。そこでtechnologiesのように複数形で表現されます。

<5>放送技術や通信技術の進歩によって,ディスプレイの高画質化・大画面化に対するニーズが急速に高まった。
Advances in broadcasting and communication technologies have increased the need for displays with higher definition and larger screens.
[解説] 放送技術や通信技術はそれぞれが個別の総合的な知識や方法を意味しています。したがって放送技術と通信技術とを含めてtechnologiesのように複数形で表現されます。
 
(3)  skill
skill は何かを行うために学習や経験によって修得した人の能力を意味する場合に使用されます。skillは「技術」の他に,スキル,能力,技能,技量,術とも訳されます。
 
<1> Eメールを使うことは,今日では不可欠の技術である。
Using email is an essential skill today.
[解説] Eメールの使い方は人が学んで習得する能力であることから,skillで表現されます。

<2> 文書処理は必須のコンピュータ技術である。
Word processing is an essential computer skill.
[解説] 文書の処理の仕方は人が学んで習得する能力であることから,skillで表現されます。

<3>言語は基本的に読解,聴解,作文および発話の4つの能力からなる。
A language basically consists of four skills: reading, listening, writing, and speaking
[解説] 言語能力は人が学んで習得する能力であることから,skillで表現されます。
 
(4)  art
art は芸術や自然科学に対する人文科学,または個々の技能のことを表します。個々の技能としては特に特殊な知識を要し,1つの技術とみなされるものを意味する場合に使用されます。artは「技術」の他に,技能,方法,術などとも訳されます。
 
<1> この本は修辞法を学ぶことの必要性から書かれたものである。
This book is written out of the need for learning the art of rhetoric.
[解説] 修辞法は人文科学における1つの技能であることから,the art of rhetoric で表現されます。

<2> 先行技術は,この目的で設計された装置が存在することを示す。
The prior art shows the existence of devices designed for this purpose.
[解説] 発明などにおける先行技術は特殊な知識を必要とする1つの技術であることから,the prior art で表現されます。

<3> その大学は文系と理系学部から構成されている。
The college consists of two faculties: arts and science.
[解説] 文系学部は人文科学関係の学部と考えられますからartsで表現されます。
 

3.  まとめ

以下に、「技術」に関連する英語であるtechnique, technology, skillおよび artの違いをまとめました。

(1) technique    
何らかの仕事を行うために開発された個々の特殊な方法や手順
複数形:techniques                                                                     

(2) technology   
実用目的に使用される科学や装置に関する一般的あるいは総合的な知識や方法。
基本的に単数形。個々の方法や手順の集まりとしては複数形で表す。

(3) skill                
何らかの仕事を行うために訓練によって身に付けた人の能力,技能のこと。
複数形:skills

(4) art                  
芸術や自然科学に対する人文科学,または人文科学における個々の技能のこと。
(芸術:art,人文科学:arts,技能:a skill)。
 
 

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執筆者紹介 興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績



1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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