【英語論文の書き方】第20回 物体や物質を表す英語表現 (body, object, thing, matter)

2016年11月2日 14時53分

日本語の科学技術文書では「物体」や「物質」という表現が頻繁に使われています。
一方、英語の科学技術文書では「物体」に対応する表現としては body や object,thing が、
また「物質」に対応して使われる表現としては matter やsubstance, materialなどが区別して使われています。

そこで今回はこれらの違いがどこにあるのかを紹介したいと思います。

1. 物体

(1) body

日本語の「物体」という意味でのbodyは、「自然界に存在する任意の物体」を客観的に表しています。
したがって、特に数学や物理学の分野で使用されます。
また「固体」のような表現の「体」を意味する場合にも使用されます。
 
<例1> The center line passes through the center of a body.
    (中心線がある物体の中心を通っている)

<例2> The density of a solid body is the mass divided by the volume.
    (固体の密度とは質量を体積で割ったものである)

<例3> A body in motion continues to be in motion unless another force acts on it.
 (動いている物体は、別な力が作用しない限り動き続ける)
 
[解説]
<例1>のbodyは、単に (図面に書かれている) 「ある物体」の意味で使われています。
また<例2>のbodyは、固体の「体」の意味で使われています。
さらに<例3>のbodyは自然界において運動する任意の「物体」の意味で使われています。
 
(2) object

日本語の「物体」という意味でのobjectは、何らかの「対象物としての物体」を意味する場合に使用されます。
言い換えれば、主観的に見たり、触ったり、操作したり、研究したりする対象物であることを意味します。
 
<例1> Two objects with the same electric charge repel each other.
 (同じ電荷を帯びている2つの物体は反発しあう)

<例2> The large telescope allowed us to observe many celestial objects in the night sky.
 (その大型望遠鏡により,我々は夜空の多くの天体を観察することができた)

<例3> A stroboscope is used to see an object in periodic motion as if it were at rest.
 (ストロボは周期的に動く物体を停止しているかのように見るために使用される)
 
[解説]
<例1>のobjectsは研究の対象物としての「物体」の意味で使われています。
また<例2>のobjects は観察の対象物としての天体であることから、
celestial bodiesではなく、celestial objects と表されています。
さらに<例3>のobjectも観察の対象としての物体の意味で使われています。
 
(3) thing
objectと同様,日本語の「物体」という意味でのthing は、基本的に何らかの「対象物としての物体」
を意味する場合に使用されます。
ただし物体としてobjectほど明確になっていない、あるいは明確に表現したくない場合に使われます。
 
<例1> Magnets attract things that contain iron or steel.
   (磁石は鉄や鋼を含むものを引き付ける)

<例2> Microscopes are used to make things look bigger than they really are.
 (顕微鏡は実物を拡大してみるのに使用される)

<例3>Biomass refers to reusable resources derived from living things.
   (バイオマスとは、再利用可能で,生物由来の資源のことである)
 
[解説]
<例1>のthingsは、磁石が引き付ける対象物ではあるが明確になっていない不特定の物体の意味で、使われています。

また<例2>のthingsは、顕微鏡でみる対象物ではあるが、やはり不特定の物体の意味で使われています。

さらに<例3>のliving thingsは、バイオマス資源の対象物ではあるが、不特定の生物の意味で使われています。

2. 物質

(1)  matter
日本語の「物質」という意味でのmatterは、固体、液体、気体などの多くの物質を集合体として
表す場合に使用されます。
また自然界を構成するすべての物質、あるいは物理的存在としての意味でも使用されます。
 
<例1> Solid, liquid, and gas are called the three states of matter.
   (固体、液体、気体は物質の3態と呼ばれる)

<例2> Conduction is the transfer of heat through matter. 
(伝導とは物質を通して熱が伝わることである)

<例3> Matter and energy can be neither created nor destroyed.
   (物質とエネルギーは生成されることも、消滅することもない)
 
[解説]
 <例1>のmatterは、固体、液体、気体などを含め、集合名詞としての物質という意味で使われています。
同様には<例2>のmatterも、集合名詞としての物質の意味で使われています。
さらに<例3>のmatterも集合名詞として、物質という一般的概念の意味で使われています。
 
(2)  substance
日本語の「物質」という意味でのsubstance は、matterと同様、固体、液体、気体などの
物質を意味する場合に使用されます。
ただしそれらの個々の物質や種類を表す点がmatterとは異なっています。
したがって個々の物質を表現したい場合は、matterではなくsubstanceが使用されます。
 
<例1> The amount of energy stored in a substance is constant.
   (物質に蓄えられるエネルギー量は一定である)

<例2> The catalyst is a substance that speeds up a reaction without being used up. 
(触媒とは自分自身は消費されずに反応速度を高める物質のことである)

<例3> Chemical reactions involve the transfer of electrons from one substance to another.
   (化学反応は1つの物質から他の物質への電子移動が関連する)

[解説]
<例1>のsubstanceはエネルギーを蓄える「任意の1つの物質」の意味で使われています。
また<例2>のsubstanceは「反応速度を高める1つの物質」の意味で使われています。
さらに<例3>のsubstanceは「電子移動が可能な1つの物質」の意味で使われています。
 
(3)  material
日本語の「物質」という意味でのmaterialは、何かを作る目的の「材料」、
あるいは材料として使われている物質を表す場合に使用されます。
materialは本来物質名詞ですが、意味される内容が材料の種類の場合には可算名詞として扱われます。
 
<例1> Material is fed from a hopper.
   (材料がホッパーから供給される)

<例2> Plants convert light from the sun into substances that help to build cell material.
   (植物は太陽の光を変換し、細胞材料生成を助ける物質を作る)

<例3> The characteristics of a material include its resistance to stress, wear, and bending.  
 (材料の特性には、応力、磨耗、曲げに対する抵抗性が含まれる)
 
[解説]
<例1>のmaterialは「何らかの組み立て用材料」の意味で使われています。
また<例2>のmaterialは「細胞用材料」の意味で使用されています。
さらに <例3>の materialは「なんらかの構造体用材料」の意味で使われています。
 

まとめ

以下に、日本語の「物体」や「物質」に対応する英語表現をまとめました。

  物体
  1. body              自然界に存在する任意の物体
  2. object            何らかの対象物としての意味を持つ物体
  3. thing              何らかの対象物ではあるが、明確になっていない物体
    
    物質
  1. matter            固体,液体,気体などの多くの物質の集合
  2. substance      固体,液体,気体などの個々の物質
  3. material         何かを作るため材料や材料として使われている物質

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執筆者紹介 興野 登(きょうの のぼる)氏

興野 登氏三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績

1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
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5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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