【英語論文の書き方】第27回 0~1の数値は単数か複数か?

2016年11月2日 14時44分

英語は単数・複数を明確に区別する言語と言えます。
例えば1個は単数扱いであり、2個以上は複数扱いされます。

しかし数値を扱う場合は、このように単純に考えることはできません。
例えば0.5のように0~1の範囲にある数値は単数扱いでしょうか、複数扱いでしょうか?

この問いに対する答えについては諸説があり、必ずしも統一的な見解があるわけではありません。
そこで今回は、0~1の範囲にある数値についての扱いについて、納得のいく考え方を提案したいと思います。

 

(1) 0~1の範囲にある数値の取り扱い例

具体例として次の日本文とその英文訳を考えます。
 
<原文> その線の長さは0.3mである。
<訳例1> The line has a length of 0.3 meters.
<訳例2> The line has a length of 0.3 meter.
 
ここで、上記訳例で使った”a length of 0.3 meters”と“a length of 0.3 meter”について
Googleのヒット件数を調べると次のようになりました。
 
  a length of 0.3 meters             4,090件
  a length of 0.3 meter               3,480件
 
 検索結果から、単数形と複数形のどちらの表現も使われていることが分かります。
さらに別な例として、長さを0.1mとした場合の結果を以下に示します。
 
 a length of 0.1 meters             10件
   a length of 0.1 meter               5件
 
件数が極端に少なくなっていますが、これは0.1mよりは10㎝と書く方が一般的なためと思われます。
ちなみに数値が10㎝の場合の結果は次のように、複数形での表現が圧倒的に多い結果となりました。
 
 a length of 10 centimeters      21,000件
   a length of 10 centimeter        9件
 
いずれにしても実際的には単数形も複数形も使われていることが分かります。
 

(2) 英語における単数・複数の基本と解釈

先に述べたように、英語では1つのまとまりと考えられるものは単数扱いであり、
それ以外で1より大きいまとまりは複数扱いされます。

この事実は英語における数の扱いの基本となっています。
例えば1つのまとまりを表す数字の1 (unity) は単数扱いですが、
1.1や1.5、 2.0などの1より大きい数字はすべて複数形で表されます。

この理由は、1.5は1.0 + 0.5の形で表されることから、2つの数値の集まりと考えることができ、
複数形で表されるのも納得できます。

一方、0~1の範囲にある数については、1/3はone-thirdと単数形で、
2/3はtwo-thirdsと複数形で表されます。

また1/4は one-quarterと単数形で、3/4はthree-quartersと複数形で表されます。

このことは1/3が1 x (1/3)、2/3が 2 x (1/3)を表し、1/4が1 x (1/4)、
3/4が 3 x (1/4)を表していると考えると良く理解できます。

つまり1/3や1/4という1つのまとまりが何個あるかで、
単数と複数を区別しているということになります。

このように考えると0.3 は3 x (1/10) のことですから、正しくは 0.3 metersのように
複数形で表すのが正しいということになります。

また0.30の場合は30 x (1/100)  のことですから、0.30 metersのように
複数形で表すのが正しいということになります。

しかし0.1  は1 x (1/10)  のことですから、正しくは 0.1 meterように単数形で、
0.01  は1 x (1/100)  のことですから、 0.01 meterように単数形で表すのが
自然な表現であると考えることができます。

また1.0の場合は10 x (1/10) のことですから、正しくは 1.0 metersように
複数形で表すのが正しいということになります。

以下に上記の考え方に基づいた、0~1の範囲にある数についての
具体的な表現例を示します。
 
複数扱い:0.5 kilograms, 2.5 x 10-2 grams, 0.4 meters, 0.3 miles, 1.00 grams
単数扱い:0.1 kilogram, 1.0 x 10-3 gram, 0.1 meter, 0.01 gram
 

(3) 英語における0 (zero)の取り扱い

数字の0は何もないことを表します。
何もないものが単数形か複数形か。などと考えることはそれ自体、本来意味がないように思われます。

しかし英語では0は一般的に複数扱いされています。
この理由は明確にはわかりませんが、英語自体の数に対する考え方に
由来するのではないかと推測します。

つまり「1つのまとまりと考えられるもの以外はすべて複数」と考えているのかもしれません。
この考え方は1つの推測にすぎません。
しかし0 (zero)の取り扱いに関する非常に有効な、実用的判断基準となることは確かです。

以下に、0 (zero)を用いた具体的な表現例を示します。
 
0 degrees Celsius, 0 points, 0 dollars and 0 cents, 0 hours, 0 pounds

(4) noの取り扱い

noが名詞を修飾する形容詞として用いられる場合、0 (zero)と同様に何もないことを表します。
ただし名詞を修飾する場合はno = not anyの意味ですから、数値と同様な考え方はできません。

no + 名詞 (可算名詞) の場合のその名詞が単数形か複数形かは、その内容によって決定されます。

すなわちnoを削除した肯定文が、単数形の方が自然な場合は単数形で表され、
複数形が自然な場合は複数形で表されます。
まったくないことを強調したい場合は、単数形で表されます。

ただしno + 名詞 (不可算名詞) の場合は、当然ですが単数扱いとなります。
以下にno + 名詞を用いた具体的な表現例を示します。
 
<1> There is no air-conditioner in this car.
    (この自動車にはエアコンはついていない)

<2> There are no air-conditioners in this house.
    (この家にはエアコンはついていない)

<3> No rays are refracted from the surface of water because the light is striking
    the surface at too great an angle.
    (光が水の表面に当たる角度が大きすぎて、水の表面からの屈折光線はない)

<4> No one has submitted a report yet.
    (まだ誰も報告書を提出していない)

<5> This capacitor will loses its electrical charge soon if no voltage is applied.
    (このコンデンサは、電圧をかけないとすぐに放電してしまう)
 
[解説]
<1>では、自動車のついているエアコンが通常は1つと考えられることから、
エアコン単数形で、<2>では、家についているエアコンは一般に2つ以上と
考えられることから複数形で表現されています。

次に<3>では、屈折光線(refracted ray)のrayが通常複数形で表現されることから
no raysのように複数形で表現されています。

一方、<4>では「報告を提出した人は誰もいない」ことを強調する意味で、
no oneが単数形で使用されています。

<5>については電圧(voltage)が不可算名詞であることから単数形が使われています。
 

(5) まとめ

以下にnoの使用法を含め、0を含む0~1の数値に関し、単数形および複数形の考え方をまとめました。
 

単数・複数に関する0~1の数値の取り扱い
(1)0~1までの数値は基本的に複数形で表示する。
   ただし1, 0.1, 0.01, 0.001のように数字の1で終わる場合は単数形で表示する。
   また1.0, 1.00のように有効数字が示される場合は複数形で表示する。

(2)no + 可算名詞は内容に合わせて単数形か複数形か選択する。
   no + 不可算名詞は単数形で表示する。
   ただし、何もないことを強調する場合は単数形で表示する。
 
     
 
 

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執筆者紹介 興野 登(きょうの のぼる)

興野 登氏三菱電機株式会社を経て現在ハイパーテック・ラボ代表
1971年,東北大学工学部電気工学科卒業
2005年,熊本大学大学院自然科学研究科卒業
博士(工学)

日本工業英語協会理事・副会長・専任講師
日本工業英語協会日本科学技術英語教育センター長
中央大学理工学部非常勤講師(科学技術英語,Academic Writing & Presentation)
東京工業大学大学院非常勤講師(Academic Writing)
東京電機大学大学院非常勤講師(Academic Writing & Presentation)
元英語翻訳学校講師(技術翻訳)
元音響学会,電子情報通信学会,AES (Audio Engineering Society) 会員

テクニカル英語の翻訳者として幅広く活躍。
30年以上に渡り電機メーカーにてスピーカーを中心とした音響技術の研究開発に従事。この間,多数の海外発表や海外特許出願を実施。 会社を早期に退職し,神奈川工科大学大学院、日本大学,神田外語大学,上智大学,中央大学、東海大学,東京工業大学等にて音響工学および技術英語の教鞭をとる。

テクニカル・ライティングは工業英語協会の中牧広光氏に師事し、企業や大学等での研修も多数受け持つ。
工業英検1級、実用英語技能検定1級(優秀賞)、通訳案内業ライセンス保持。
 

最近の実績

1. 2013/09/18 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(名古屋大学)
2. 2013/10/02 「科学英語論文スキル・セミナー― How to Brush Up Your Academic Writing Skills―」(IEEE, GCCE2013, Tutorial)
3. 2013/12/25 「理工学学生を対象とした英語論文ライティング入門」(山口大学)
4. 2014/01/21 「科学技術英語ライティング」(名古屋大学)
5. 2014/05/21 「科学論文英語スキルセミナー」(名古屋大学)
6. 2014/10/08 “Concept of 3C’s in Academic Writing and Practical Academic Writing Skills for Students and Researchers in the Fields of Science and Technology”, IEEE, GCCE2014, Tutorial
7. 2014/12/02 「英語論文の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
8. 2015/01/07 「科学論文英語ライティングセミナー」(北海道大学)
9. 2015/05/13 「理系学生向け英文ポスタープレゼンテーションセミナー」(名古屋大学)
10. 2015/06/08「科学英語を正確に書くための基本と実践講座(Ⅱ)」(北海道大学)
11. 2015/06/17「英語論文」の書き方セミナー(基礎編)」(能率協会)
12. 2015/07/08「英語論文」の書き方セミナー(応用編)」(能率協会)

その他:工業英語協会でのセミナーなど。

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興野先生は弊社でも論文専門の翻訳者としてご活躍されています。
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